住宅ローンの借入額を考え始めると、「年収の何割までなら大丈夫なのか」という問いに行き当たります。ネットで調べると「25%」「30%」「35%」とさまざまな数字が出てきて、どれを信じればいいのか迷うのは自然なことだと思います。
数字がばらばらに見えるのは、同じ「返済比率」という言葉で、別々のものが語られていることが多いからです。ひとつは審査で使われる上限の目安、もうひとつは家計として無理なく暮らせるかどうかの目安です。この2つは近いようで、計算のもとになる年収の考え方から違います。
この記事では、建てる側でも売る側でもない第三者の立場から、公的な制度とデータを確かめつつ、返済比率の見方を整理します。「何%なら安全」という答えを出すものではなく、ご自身の家計で数字を置き直すための手順としてお読みください。
- 【フラット35】の総返済負担率の基準は、年収400万円未満で30%以下、400万円以上で35%以下です。
- 2025年度フラット35利用者調査の平均総返済負担率は22.8%で、土地付注文住宅が26.4%と最も高くなっています。
- 審査の上限は「借りられる線」で「暮らせる線」とは別物のため、手取りで計算し直すと負担感が見えやすくなります。
返済比率(返済負担率)とは何か
返済比率は「返済負担率」とも呼ばれ、年収に占める年間の返済額の割合を指します。計算式にすると次のとおりです。
返済負担率(%)= 年間の返済額 ÷ 年収 × 100
ここで押さえておきたいのは、審査の場面でいう「年収」が、多くの場合、税金や社会保険料が引かれる前の額面の金額だという点です。【フラット35】では、年収は原則として申込年の前年の収入を証明する公的証明書に記載された金額とされ、給与収入のみの場合は「給与収入金額」、つまり額面が使われます。
もうひとつのポイントは、「年間の返済額」に含まれる範囲です。【フラット35】の基準で見るのは住宅ローンだけの割合ではなく、すべての借入れを合わせた「総返済負担率」です。住宅ローンのほか、自動車ローン、教育ローン、カードローン(クレジットカードのキャッシング、分割払い・リボ払いを含む)なども合算の対象とされています。車のローンが残っている状態で家を考えるお施主様は少なくないので、ここは早めに確かめておきたいところです。
【フラット35】の基準と、利用者の平均
公的な基準として確認しやすいのが、住宅金融支援機構の【フラット35】です。【フラット35】では、年収に占めるすべての借入れの年間合計返済額の割合(総返済負担率)について、次の基準が設けられています。
- 年収400万円未満:30%以下
- 年収400万円以上:35%以下
たとえば額面年収600万円なら、35%は年間210万円、月あたり17万5,000円です。この中に車のローンなど他の返済も含まれるため、車のローンが月2万円(年間24万円)あれば、住宅ローンに充てられる枠は年間186万円までという計算になります。
一方、実際に【フラット35】を利用した人の平均はどうか。住宅金融支援機構の「2025年度フラット35利用者調査」(2026年7月24日公表)によると、2025年度の平均総返済負担率は22.8%で、前年度から0.4ポイント下がっています。融資区分別に見ると、土地付注文住宅が26.4%と最も高くなっています。なお、この調査での総返済負担率は、1か月あたりの予定返済額を世帯月収で割った数値です。
基準の上限が30〜35%であるのに対し、利用者の平均は20%台にとどまっている。この差は、借りられる上限いっぱいまで借りているわけではない人が多いことを示しているとも読めます。ただし平均はあくまで平均で、ご自身の家計にそのまま当てはまる数字ではありません。
審査の上限と「暮らせる」水準は別物
審査の基準は、「この割合を超えると借入れの条件を満たさない」という線引きです。「この割合までなら暮らしが回る」ことを保証する数字ではありません。
理由のひとつは、先ほど触れた額面と手取りの差です。額面年収には所得税・住民税・社会保険料などが含まれていて、実際に家計に入ってくるお金はそれより少なくなります。額面で35%に収まっていても、手取りに対する割合はもっと大きくなります。
もうひとつは、家計ごとの事情が審査の数字には表れにくいことです。子どもの人数や進路、車の有無、共働きかどうか、親の支援の有無、住まいの維持費。同じ年収、同じ返済額でも、暮らしの余裕はまったく違ってきます。
審査に通ることと、住み始めてから無理なく払い続けられることは、分けて考えたほうが整理しやすいと私は考えています。
手取りで計算し直す手順
「暮らせるかどうか」を見るには、額面ではなく手取りを基準に計算し直すのがひとつの方法です。手順は次のとおりです。
- 手取り年収を確かめる:源泉徴収票の支払金額から、所得税・住民税・社会保険料を引いた金額が目安になります。給与明細の「差引支給額」を12か月分と賞与分で合計する方法もあります。共働きの場合は、ローンを組む人の分だけでなく、家計に入る合計で考えます。
- いまの家計の支出を書き出す:食費、光熱費、通信費、保険料、車の費用、教育費、貯蓄など、住居費以外にかかっているお金を月単位で出します。
- 手取りから住居費以外の支出と貯蓄を引く:残った金額が、住宅ローンの返済と、固定資産税・火災保険料・修繕の積み立てなど住まいの維持費に充てられる上限の目安になります。
- その範囲に収まる返済額から、借入額を逆算する:借入額から返済額を決めるのではなく、払える返済額から借入額を考える順番にします。
具体的な数字で見てみます。額面年収600万円の世帯で、手取りを仮に年460万円とした場合の計算です(手取りは家族構成や保険料などで変わるため、あくまで仮定の値です)。
| 考え方 | 年間返済額 | 月あたり | 額面600万円に対する割合 | 手取り460万円(仮定)に対する割合 |
|---|---|---|---|---|
| 額面で35%(【フラット35】の上限) | 210万円 | 17万5,000円 | 35.0% | 約45.7% |
| 額面で25% | 150万円 | 12万5,000円 | 25.0% | 約32.6% |
| 手取りで25% | 115万円 | 約9万6,000円 | 約19.2% | 25.0% |
額面で25%に抑えたつもりでも、手取りに対しては3割を超えます。審査上限の35%まで借りると、手取りの半分近くが返済に回る計算です。どの割合なら暮らせるかは家計によって違いますが、同じ「25%」でも、どちらの年収を分母にするかで返済額が大きく変わることは押さえておきたい視点だと思います。
なお、住宅ローン以外に固定資産税や火災保険料、将来の修繕費もかかります。手取りで考えるときは、これらも住居費に含めて見積もっておくと実態に近づきます。借入額の前提となる予算全体については、注文住宅の総額で整理しています。
教育費・車・老後資金、そして金利上昇の見方
住宅ローンは、長い場合は35年ほど続きます。その間に家計の支出は変わっていきます。返済比率を考えるときは、いまの家計だけでなく、先の支出も視野に入れておきたいところです。
教育費:子どもの年齢が上がるにつれて負担が増え、特に高校・大学の時期に大きくなりやすい費用です。返済が始まる時点では余裕があっても、10年後、15年後に重なってくることがあります。
車:車の買い替えは数年から十数年ごとに訪れます。車のローンを組めば、それも総返済負担率に含まれる借入れです。家を建てる前後に車の購入が重なると、返済の枠を圧迫します。
老後資金:返済の終わりが定年後にかかる場合、退職後も返済が続くことになります。完済時の年齢と、そのときの収入の見通しを確かめておくと、借入期間や繰上げ返済の考え方が変わってきます。
金利上昇:変動金利で借りる場合、金利が上がれば返済額が増える可能性があります。全期間固定金利であれば、返済額は借入時点で決まります。いまの金利で計算した返済比率だけでなく、金利が上がった場合の返済額で手取りに対する割合を試算しておくと、どこまでなら耐えられるかが見えやすくなります。金利の見通しを断定することはできないので、「上がったら」という仮定で幅を持たせておくのが現実的です。
借入額を抑える方法のひとつに、頭金を入れることもあります。どのくらい用意するかの考え方は、頭金はいくら必要かで取り上げています。
よくある質問
Q. 返済比率の計算に使う年収は、額面ですか、手取りですか?
審査の場面では、多くの場合、税金や社会保険料が引かれる前の額面が使われます。【フラット35】でも、給与収入のみの場合は「給与収入金額」、つまり額面が使われます。
Q. 車のローンも返済比率に含まれますか?
【フラット35】の基準で見るのはすべての借入れを合わせた総返済負担率で、自動車ローンや教育ローン、カードローン(分割払い・リボ払いを含む)なども合算の対象です。
Q. 何%なら無理なく暮らせますか?
家計によって答えが違います。手取り年収から住居費以外の支出と貯蓄を引き、その範囲に収まる返済額から借入額を逆算する手順で、ご自身の家計に数字を置き直すのがひとつの方法です。
まとめ
- 返済比率(返済負担率)は、年収に占める年間返済額の割合。審査では額面の年収が使われることが多い。
- 【フラット35】では、すべての借入れを合わせた総返済負担率が、年収400万円未満で30%以下、400万円以上で35%以下とされている。
- 2025年度フラット35利用者調査では、平均総返済負担率は22.8%、融資区分別では土地付注文住宅が26.4%で最も高い。
- 審査の上限は「借りられる線」であり、「暮らせる線」とは別物。手取りで計算し直すと、同じ割合でも負担感は大きく変わる。
- 教育費・車・老後資金・金利上昇など、先の支出を重ねて試算しておくと、無理のない返済額が見えやすくなる。
何%なら暮らせるかは、お施主様それぞれの家計によって答えが違います。数字の置き方に迷ったときは、利害関係のない第三者(ファイナンシャルプランナー、公的機関の相談窓口など)に相談する選択肢もあります。
コメント